眠りを極める

人が起きている時間に起きられない

朝、起きられないのは怠け者? それとも病気?

「朝、どうしても起きられません。バイトにもほとんど時間までに行けたことがありません。」 こういった人はとても増えています。なんとか治してあげたいですが、治療するには診断が大切。さて、まずはしっかりお話をうかがってみましょう。

28歳、男性 Aさん。お話を聞くと、夜に働いている彼は、毎日寝るのが早朝5時ごろ、起床は昼の12時ごろ、とういうことで、これが高校卒業ぐらいからずっと続いているといいます。
平日も週末もあまり関係なく、この生活スタイル。起きているあいだは、急に眠くなることはないとのことです。

  1. 不眠症
  2. 適応障害
  3. うつ病
  4. 睡眠時無呼吸症候群
  5. 睡眠相後退症候群

起きられないことで考えられる病気は、このようなもの。
そして最後に性格の問題、つまり「怠け者」なのかということです。

彼の場合は、睡眠時間自体はそれほど長くないので、 ナルコレプシー や 過眠症 とは違うようです。もしもこれらの病気ならば、非常に長時間にわたる睡眠、過度の眠気、日中にしょっちゅう眠くなるなどの症状が伴うはずですから。では、彼のケースについて、ひとつひとつ、可能性を見ていきましょう。

まず 不眠症 ですが、0 時ごろに寝ようと頑張ってもなかなか眠れません。不眠症のように思えますが、明け方にべッドに入ればすぐに眠れるそうです。不眠症は寝付き、すなわち入眠困難が問題となるのですが、彼のケースでは、時間さえ合わせれば寝付きに関しては問題はありません。不眠症とは少し異なるようです。

適応障害とは、「はっきりとしたストレス因子に反応して、情緒面および行動面での症状が3ヶ月以内に出現し、社会的機能は著しく障害されている」というものです。彼の場合は、バイトでのプレッシャーやいじめなどのストレスがもしあれば考えられますが、それは本人の発言からも否定的です。

では、うつ病 が考えられるかといえば、典型的なうつ病ともいえません。「なんとなく気分が晴れない」という抑うつ気分、「やる気が出ず、好きな趣味もご無沙汰です」という興味・関心の喪失のどちらかがないとうつ病とは診断できません。彼の場合は、気分の沈みもないですし、現状をなんとかしたいという意欲も十分にあります。

睡眠リズムの乱れを整える薬

というわけで、4、5の可能性が高いと考え、1泊2日で検査入院をしてもらいました。睡眠にかかわる病気かどうかを調べるには、睡眠ポリグラフ検査が必要だからです。脳波や呼吸センサーなどをつけて、一晩寝ていただきました。

検査結果は、睡眠時の無呼吸どころか いびき もほとんどなく、4の 睡眠時無呼吸症候群 は否定的、結局、5の 睡眠相後退症候群 がいちばん疑わしいということにりました。

睡眠相後退症候群 とは、入眠時刻と覚醒時刻が望ましい時間帯より遅く、入眠時刻は毎日ほぼ一定です。一度眠りはじめると、睡眠について問題はありません。しかし、朝の起床はたいへん困難、そういう厄介な睡眠障害です。どれくらい患者数がいるかは、調査によってまちまちで、日本では0.13%という報告がありますが、実際はもっと多い可能性があります。

治療についてはこれぞ特効薬というものはなく、光療法、メラトニン、ビタミンB12、中枢神経系を覚醒させる作用を持つ モダフィニル などがあります。 ラメルテオン という薬剤は、脳のメラトニン受容体を刺激して眠りを誘います。この ラメルテオン は 睡眠薬 というより リズム調整薬 という意味合いが強い薬で、睡眠相後退症候群の治療にも応用できます。

ノースウエスタン大学の研究によれば、不眠症に使用するよりも少ない量のラメルテオンを夕方に投与すると、睡眠・覚醒リズムが1時間前に進むことが示されました。「ちょい朝型」になれるかもしれない、という治療法です。

しかし、生活リズムを朝= 起床というパターンに絶対に合わせないといけないのでしょうか? 仕事によっては、そうではありません。とはいえ、大多数のひとは、日中の仕事がメインです。睡眠リズムの乱れが仕事への不適応につながり、ついには抑うつ的となってしまうパターンも珍しくないのです。

彼の場合は、ラメルテオン 2mg を夕方飲んでもらうことで、なんとか夜に寝て、朝起きられるようになりました。ただ、朝は極度に苦手のままですが、朝の用事をすっぽかすことはなくなったので、効果があったのだと思います。

不眠に関するQ&A – 昼間に強烈な睡魔に襲われる

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