朝日で起床するのが一番さわやかに目覚めることができる

「眠りのホルモン」メラトニンのスイッチは「朝の光」

「ホルモン」というのもよく聞く医学用語ですが、「それって結局なに? 」と聞かれると答えられないひとも多いのではないでしょうか。

こちらも一度、復習しておきましょう。ホルモンとは、生物の体の中の特定の器官で合成・分泌され、からだの中を巡り、別の決まった器官にたどり着いたところで、血液を通してその効果を発揮する物質のことです。睡眠のホルモンといえば、メラトニンが有名です。

メラトニンは脳の松果体( 松の実に似た形なので、こういう名前です) というところから分泌されます。しかし、この松果体は末端機関にすぎず、ホルモンをコントロールする司令塔ではありません。

では、その司令塔はどこかというと、それは、視床下部というところです。メラトニン分泌に欠かせないもの、それは「光」です。

体内時計、いわゆる時計中枢は、視床下部の視交叉上核という部位にあることがわかっています。朝の光を浴びることでこの視交叉上核が光を感知し、日中は目を覚まして活動し、夜暗くなると眠くなるようなリズムの調整を行っています。

光を浴びて朝を認識してから15~16時間が経つと、視床下部にある体内時計は先ほど出てきた松果体にメラトニンを血液中に分泌するよう指令を出します。
メラトニンは全身にはたらき、体温や脈拍、血圧を下げて、睡眠の準備状態を作ります。そして夜明けとともに、メラトニンの分泌量は再び少なくなっていくのです。

「目覚めのホルモン」コルチゾルは昼間にかけて発動する

メラトニンとは対照的に、夜明けから日中にかけて分泌量が増えるホルモンとして、コルチゾルがあります。アトピー性皮膚炎や気管支喘息で治療に使われる副腎皮質ホルモンの一種です。

このコルチゾルも、人間の生命活動に不可欠な存荏です。コルチゾルは、炭水化物、脂肪、およびタンパク代謝をコントロールします。

副腎皮質という臓器から生産・分泌され、血圧や血糖に影響を与えます。もしも副腎皮質に異常があって副腎が機能しない、副腎不全になってしまうと、血圧は低下しからだのミネラルのバランスもまったく取れなくなり、死の危険さえあります。それくらい、生きるためには絶対必要なホルモンなのです。

コルチゾルは生命やパワーの源となるホルモンなので、活動している昼間に分泌量が多くなり、寝ている夜に下がるのは自然なリズムです。では、とにかくコルチゾルが多くあればいいのか、というとそんなわけではありません。

強いストレスでコルチゾルが増えると海馬を萎縮させてしまいます

コルチゾルは、ストレスによっても生産・分泌量が増加することが知られています。ストレスが加わると耐久力をアップしなければならない、と、からだが判断し、生命活動をより活発にしようとするのです。

いわば、生体の持っている防衛反応です。が、コルチゾルが分泌きれ過ぎる、すなわちストレスが過剰になると、脳と睡眠にマズいことが起きます。

コルチゾルは海鳥の紳胞と結合して、その細胞を死滅させる働きがあります。多くの動物研究でもこの事実は確かめられているのですが、人間の心的外傷後ストレス障害(PTSD) の脳画像研究のおかげで、よりこの事実が生々しくわかるようになりました。アメリカ・イエール大学精神科のグループは、ベトナム帰還兵や児童虐待の被害者たちの脳をMRIで調べました。結論としては、ストレスにさらされた期間が長いはど、海馬が萎縮してしまうのです。

この海馬萎縮の原因として、コルチゾルの過剰な影響が強く疑われています。うつ病の患者さんでも同じような海馬の萎縮が報告されていますが、有力な原因のひとつが、やはりコルチゾルです。

「いつ起こされるかわからない」も「起きなきゃ」も、熟睡を妨げる

コルチゾルが増加すると睡眠にも悪影響が出てしまいます。当直や電話待機のようにいつ起こされるかわからない、あるいは翌朝ある特定の時間に絶対に起きなければならないというプレッシャーのかかった睡眠では、睡眠中のコルチゾルやコルチゾル分泌を促すホルモンが増加するという研究結果があります。

つまり、寝坊を恐れて緊張していたり、いつ起きれるかわからない状況では、からだも準備態勢を維持しなければならず、いつものようにぐっすり眠ることができないのです。

ともあれ、よい眠りのためには、まずはメラトニンを正常に発動させることが大切です。ホルモン分泌にも、日内リズムがあります。
これを調整するには、やはり朝の光に勝るものはないようです。サプリとしてアメリカで販売されているメラトニンも海外旅行で入手は可能ですが、日本での服用はあくまで自己責任。生活を整えて、毎朝光を十分に浴び、体内の自然な分泌に重ねるのがいちばんだと思います。

睡眠ホルモン「メラトニン」について詳しくはこちら。